―――狭い鳥籠に鎖された空で漆黒の翼の鳥が囀る

この狭い空の下では羽搏く事が出来ない 鳥籠の錠も錆び付いて開かない

その囀りは奪われた自由の象徴か 其れとも混沌と終焉を告げる囀りか―――

―――囀りは軈て、悪魔の嘲嗤へと変貌する

自由を奪われ、羽搏きを奪われた鳥は狂い、堕天使へと成り果てる―――





―――堕天使は大空へ解き放たれた 彼を鎖す鳥籠の錠を破壊して―――

そして堕天使は生命を、文化を、文明を奪い始めた―――

只、無意識に、世界の何もかもを駆逐するまで―――

彼が司りしは絶望、恐怖、破壊、厄災、そして、死―――

大地を揺るがし、森をも焼き払い、そして疫災、戦争をも引き起こす

恐怖と絶望を齎して尚、彼は暴虐の限りを尽くす

只、破壊と殺戮の衝動が治まらない限り―――

―――斯くして、世界は混沌と禍乱の時代に沈む―――





―――軈て堕天使は斃された 数多の神話の神と英雄達によって―――

それは余りにも凄惨で、残酷な戦乱だった

この戦乱で多くの屍が築かれた 失った物が余りにも多すぎた

そして堕天使は、永久の奈落へと鎖される―――





―――何も視えない、何も聴こえない、何も存在しない―――

一筋の光すら届かない常闇の世界 生物すら棲息しない虚無の空間

深淵の最果てに在りしは、鳥籠を模った小さな牢獄

そこに鎖されしは、闇のような黒衣と悪魔の翼を纏った堕天使―――

嘗て彼の自由を鎖した鳥籠 彼は再び籠の中へと幽閉される―――

決して堕天使を鎖さす鳥籠を開けてはいけない、枷を外してはいけない

もしその枷が外れたならば、訪れるは世界の黄昏―――





――― 一体、どれだけの時間が過ぎた……

永遠の時の中で堕天使は呟く 鳥の囀りのような小さな声で

深淵の世界では時間の概念が存在しない 在るのは永遠の拷問

これが世界を絶望と禍乱に陥れた報いなのか―――

文明の破壊 引き起こした災禍 人を、神をも屠った罪の重さ

贖っても償いきれない程の大罪を彼は理解出来なかった

何故なら、彼は絶望と殺戮を糧として生きる厄災の化身―――

彼は最早、善意すら感じられない悪意で満たされた獰猛な魔獣

誰にも宥められない、飼い馴らせない、和解すら出来ない―――



―――彼はずっと飢えていた 永久の奈落に堕とされて以来―――

早く絶望を糧にしなければ 早く禍乱を起こさなければ

何よりも、自らを永久の奈落に鎖した神へ復讐しなければ―――





―――そして、堕天使を縛る枷は音を立てて崩れ落ちた

鎖す鳥籠の錠も壊され、再び彼は自由の身となった―――



―――斯くして、絶望と破壊の悪夢が再び訪れる―――





―――彼が最初に訪れた場所、其処は赫と黒に彩られた王国だった

然し、悪意で満ちた彼にもこの国に見覚えはあった

此処はもしかすると…… 彼は早速、居城に向かう

そして彼は出会った 赫い翼を持つ黄昏の堕天使に―――





「其方はまさか…… 妾の……?!」









「……久しぶりだなぁ 黄昏…… 我が妹よ……」






黒き終焉の堕天使の物語