絶望の焔 ―――消えない 消えない 絶望の焔が如何しても消えない
水を掛けても鎮められない 油を注いだかのように激しく燃え盛ってしまう
軈て絶望の焔は大地を、生命を、希望の光までも灼き尽くす―――

誰かこの焔を鎮めてください 何もかもが手遅れになる前に
誰かこの焔を鎮めてください 世界が破滅に向かう前に―――
―――それでも焔は全てを蝕む この世界から希望が潰えるまで―――
いや、全ての希望が潰えても尚、絶望の焔は全てを灼き尽くすだろう―――



七つの大罪の王と第八の罪 ―――羨望、それは君が低い身分に生まれし罪
蔑まれ、虐げられし、奴隷として扱われた男は王族へと嫉妬する―――
―――憤怒、それは君が激昂の悪魔に支配されし罪
羨望は軈て復讐と憎悪に変貌 殺戮の悪魔と成り果てる―――
―――貪食、それは君が数多の命を屠りし罪
彼は憤怒の儘、暴虐を尽くす 猛獣が弱き獣を喰らうが如く―――
―――堕落、それは君が王に成り上がりし罪
そして彼は自由を求む王になる これが殺戮と言う名の貪食の顛末―――
―――淫蕩、それは君が道楽と淫欲に耽し罪
堕落の果てに彼は淫乱の溟海に眩む これが彼の欲した自由―――
―――強欲、それは君が世界の全てを求めし罪
淫蕩だけでは物足りない 強い欲望は軈て世界の全てにまで及ぶ―――
―――傲慢、それは君が神の名と地位を騙りし罪
強欲の果てに彼は世界の頂に立つ 王でもなく、最高神として―――

―――それが、君が背負っている罪なのかい?
しかし、彼は死罪に裁かれなかった 暴虐の徒を尽くしても尚―――
彼の犯した罪、それは荒れ果てた世界を変える革命だった
王の暴政により国は腐れ果てていた 王に抗う者には死罪の咎を
それに怒りし彼は革命を決意した 王の暴政を止める為に
その後彼は自由を勝ち取り、酒池肉林を貪る道楽の毎日を過ごす
外の世界は更に腐っていた ならば私が全てを変えてやろうと
軈て彼は全ての世界を総べる王になる 神としての傲慢の果てに―――

―――彼が背負った罪、それは七つの大罪の孰れでもなかった
絶望の闇を打ち払った罪 希望と自由を取り戻す為の罪 世界を救済した罪
黙示録に刻まれる事の無い第八の大罪、その罪の名前は……「正義」



牢獄の中の蝶 ―――凍えた狭い牢獄の中で少女は最後の夢を見る
それは、蝶になって大空を飛び回る夢の筈だった―――
翅を削がれた蝶は羽搏きを失い、大地を這い蹲る
孰れは黒い鴉に啄まれて餌になる運命を知らずに―――

そして少女は永遠の眠りに就く 翅を削がれた蝶の如く―――
嗚呼、私はどうして夢の中でも自由になれないの―――



奪われたモノ ―――お願い、私達からこれ以上何も奪わないで
貴方は私達から娯楽を奪っていった
貴方は私達から幸福を奪っていった
貴方は私達から自由を奪っていった
貴方は私達から平和を奪っていった
貴方は私達から希望を奪っていった
それでもまだ、貴方は私達から何を奪っていくの?
悪魔よお願い、私達から、これ以上何も奪わないで―――



終焉の灯火 ―――昏く朽ち果てた聖堂 其処に横たわる吸血鬼
吸血鬼の胸には鋭利な銀の剣が刺さる 夥しき流血、激しい苦痛、薄れる意識
経壇に置かれしは今にも灯火の消えそうな一本の蝋燭
そして吸血鬼の前には白い鎧を纏いし一人の聖騎士
若しもその灯火が消えたなら、私の生命は尽きてしまう
其の生命が尽きる前に契約を結ばねば 例え邪神に魂を売ってでも―――

軈て小さな蝋燭の灯火は、世界を灼き尽くす煉獄の焔に変わる
その劫火は憤怒の象徴か 其れとも、終焉へと誘う破滅の象徴か―――
斯くて、決して終わる事の無い闇黒の夜の帳が降りる―――



パンドラの匣 ―――斯くて開かれたパンドラの匣
     それは決して開けてはいけない禁断の匣―――

―――斯くて開かれたパンドラの匣
     匣の中身は運命の女神にも判らない―――

―――斯くて開かれたパンドラの匣
     匣の底に残るは希望か、其れとも絶望か―――



終わらない夜の鎮魂歌 ―――私達は、終わらない夜を延々と繰り返す
その夜は常闇よりも昏く、草花一本咲かない凍て付く極寒の世界
虚空に浮かぶは闇を齎す灰色の月 唯一の光は妖しく瞬く星の輝き
どうか呪われし大地に春の息吹を どうか呪われし世界に希望の暁光を
そして、この永遠の夜に潰えた全ての生命に捧ぐ鎮魂歌を―――



終わらない夜の小夜曲 ―――悪魔に支配された闇の世界でエレンは歌う
     永遠の夜に命尽きた恋人を想う小夜曲を―――

貴男は獅子の如く勇敢で、天使のような博愛の心を持っていました
私が貴男と初めて出逢ったのは村外れの森の中―――
悍ましい怪物に襲われていた私を命懸けで助けてくれました
特に貴男の黄昏のような亜麻色の髪と紺碧のような瞳に惹かれました
それから私は貴男との恋に落ちました これが私にとっての初恋でした
誰からも忌避される身分であるこの私にさえ愛情を抱いてくれた
もしこの夜が終われば、貴男と永遠の愛を誓う その筈でした―――
―――或る吹雪の日 私の元に一つの棺桶が届きました
棺桶の中には白銀の剣と壊れた鎧 そして何も語らぬ貴男の姿―――
私は変わり果てた貴男の姿を見て、嗚咽を上げて泣き崩れました
泪と声が涸れる程の慟哭 立ち直ることすら出来ませんでした
そんな私でもこれだけは理解出来ました これは悪魔の仕業だと―――
―――貴男の居ない世界 悪魔に対する恐怖 終わらない夜の絶望
夜明けの訪れない世界を、私は貴男無しでは生きていけない
無意識の内に私は村外れにある湖の桟橋の上に立ち竦んでいました
いっそ此処で死んでしまえば悪魔の居ない世界に辿り着けると信じて
其の世界はどれだけ希望と祝福に溢れた世界なのでしょうか
その前に私は捧げます 亡き貴男の為の小夜曲と鎮魂歌を―――

―――エレンは歌い終わると、斃れるように湖へと崩れ落ちた
その湖の水は凍て付いていた 恋人を殺めた冷酷な悪魔の如く―――
彼女の心臓は水が喉に詰まる前に、水飛沫の音が止む前に胎動を終えた
軈て彼女の身体は水底へ沈む 悪魔の居ない世界を夢見て―――
そして水底に響くは、彼女の死を嘲嗤う悪魔の声―――



終わらない夜の円舞曲 ―――私は只管踊り続ける 此の夜が明けるまで
例え腕が疲れても 例え脚が壊れても 例え命が絶えるまで
奏でし音楽は円舞曲か 其れとも静寂なる夜想曲か
或いは荘厳なる協奏曲か 将又情熱的な狂想曲か
私は何も知る由も無い 此の夜が永遠に続くと言う事実を
其れでも私は踊り続ける 冷酷なる悪魔の掌の上で―――

―――最後に奏でしは、操り人形と化した私への鎮魂曲―――



悪魔の居ない世界 ―――悪魔の居る世界 それは絶望に満ちた世界
争いは続き、人は疵付き血を流し、そして死に絶える戦乱の世界
恐怖が全てを支配する憎悪と怨嗟に溢れる暗黒郷―――

―――悪魔の居ない世界 それは希望に満ちた世界
誰も疵付かない、武器も戦争も無い、誰もが幸せで居られる平和な世界
幸福が全てを包み込む笑顔と祝福に溢れる理想郷―――

―――悪魔の居る世界 それは夜明けの訪れない世界
草花は枯れ、風は凍て付き、灰色の月が帳を降ろす闇の世界
氷雨が降り、吹雪が荒ぶ極寒の冬が永遠に続く暗黒郷―――

―――悪魔の居ない世界 それは朝と夜が訪れる世界
草花が咲き、暖かい風が吹き、太陽が大地を照らす光の世界
桜が舞い、虫が鳴き、楓が彩り、雪が降る季節を繰り返す理想郷―――

―――悪魔の居る世界 それは厄災が降り注ぐ世界
人々は飢え、大地は揺らぎ、煉獄の焔が全てを灼き尽くす災禍の世界
眼に見えない死神の恐怖に怯える悪夢が続く地獄―――

―――悪魔の居ない世界 それは自然溢れる世界
水は透き通り、大地は碧に溢れ、新たな命芽生える豊穣の世界
決して魔物に怯える事の無い平和が続く楽園―――

―――悪魔の居る世界 それは貴男が居ない世界
二度と動かぬ骸の前で、私は嗚咽を上げて泣き崩れていた
冷たい雨が降り注ぐ墓地にて、奏でられしは鎮魂歌―――

―――悪魔の居ない世界 それは貴男が生きている世界
光溢れる永遠の平和の中で、私は貴男と永久の約束を誓おう
祝福の鐘が鳴り響く大聖堂にて、奏でられしは讃美歌―――